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入社前、1年間の海外武者修行

入社前、1年間の海外武者修行
その損得勘定のゆくえ!

―ニッポンの企業文化は変えられるか?―

新入社員が入社前に、一年間の海外武者修行を行う会社がある。
カナダやオーストラリアをベースにしているが、今やアフリカや
南米、中国やインドへも足を踏み入れている。一人300万円
以上のお金を使ってのスポンサーシップだが、入社前だから無給
である。入社後に実施する場合は、休職届けを提出して参加する
から、この場合も無給である。

さて、この研修は、自由参加である。あなただったら、
この”自由”をどのように行使するでしょうか?
結論から言うと、彼らはさんざん迷った末、40%が参加し、
60%が不参加を表明して、さっさと職場の喧騒の中へと姿を
くらましていく。

さんざん迷うのは、やはり、無給であり、入社が一年遅れるため、
サラリーマンの生涯年収が何千万円も減るかもしれないという試
算をするからである。金銭の損得以外にも、海外生活のさまざまな
危険や不便を、「28日間決断日誌」とよばれる教材を通じて知ら
されていく。さんざん考えた末に各自が28日目に、最後の決断を
下すことになる。

300万円以上のお金をスポンサーする以上、会社だって、当然、
損得勘定をする。

TOEICが平均でも150点、なかには450点も上昇する者もいる
から、新入社員の英語体力は、いっきに一流企業並みとなる。外務
省や商社に入れるほどの腕前となる若者も出てくる!!しかし又、
たった3日間で尻尾を巻いて逃げ帰ってく若者もいるし、そもそも
TOEICが高くても、仕事ができる訳ではないから、計算は複雑である。

日本の学校では、まったく教えられることがなかった様々な発想に
触れながら、異文化の障害物競走を克服してきた力を、どう評価す
るか、難しい損得勘定が会社側にもある。

ひとつだけハッキリしていることは、いったん入社してしまうと、
以後40年間、若者達に二度と、このようなチャンスは、訪れない
だろうという事実と、又、30歳、40歳になってやったのでは
そのコストがあまりにも大きいという事実です。

多くの大人達の外国語体験は、too little、too lateだったと
言う切ない思いの中から生まれたほろ苦い計算式である。
つまり、自分のことは、さっさと”あきらめ”、次世代にかけ
ようという、遼くんパパ、藍ちゃんパパの発想がかいまみられる。

今日のスターも2代目、3代目にして、やっと達成したという訳です。
しかし、会社の悩みは更に別のところにある。
そもそも、「参加」「不参加」の自由を与えるべきかどうか
という大問題です。不参加の自由をあたえることは、同じ釜の
メシを食う同期の桜を出発点から二分することになる。

「同期の桜」と「同じ釜の飯」が日本的経営の根幹である。
従って、会社のこの決断は、いわば日本式からの決別宣言と言う
ほどのものであった。外国語研修デザイナーとしてのねらいは、
まずは、出発点で、両者にこのソーシャルリスクを受け入れる
覚悟を問うことにあった。

人生の一大事を、いつも誰かが決めてくれることに慣れている
日本の若者にとって、これは一大事である。
自由というのが一番やっかいである。大企業を選択したのも、
自分の頭で考えるより、「会社」が決めてくれる運命協同体の方が、
そもそもリスクが小さいからであった。「会社」も、最近の若者は
指示待ちだとか、内向きだとか嘆きながら、相変わらず霞ヶ関の
発想で集合研修を行い、自分の頭では考えない、決断できない
若者を大量生産してきた。

結果として、大事故や犯罪が発生しても、「皆で決めたこと」であり、
誰の責任でもないから、社長がテレビの画面で謝るという「日本式」が
定着した。はたして第2第3の大事故が起きる前に、心の柔軟体操を
終えて、私たちは新時代に軟着陸できるだろうか?

研修デザイナーとしての私の役割は、車間距離も取らず、
高速道路を猛スピードで突っ走る現代ニッポンに安全のための
衝撃吸収装置を設定していくことにある。

ギャップイヤーと呼ばれる衝撃吸収装置を提案しても、運転手達は、
そう簡単に車を止めてくれる訳ではなかった。紹介した1年間の
海外武者修行は、「アドベンチャースクール」と呼ばれ、若者達に
親しまれ、参加者は総計1200名を越えた。

19年前、3週間のプログラムとして始めて、1年間のプログラムに
なるまで10年間の歳月が流れた。散々迷った末に、このプログラムを
受け入れた大企業とは、矢崎総業――というグローバルな自動車部品
会社である。

はたして、損得勘定のゆくえは?大型コンピューターはどうソロバンを
はじくか?日本の未来がかかっている。時代のスピードと安全のための
車間距離、「アドベンチャースクール」のデザイナーは、
実は臆病なスピード恐怖症だった。

“危ない!危ない!”と狼少年のように叫んできた。今もなお、祈るような
気持ちで旧型の日本式に力いっぱいブレーキをかけ続けている。急がば回れ!!
車間距離をとれ!ハンドルの遊びをつくれ!安全運転の交通標識のような
研修になってしまうのは、多分、歳のせいだろう。70歳。

金子 詔一

外国語研修デザイナー